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最高裁判所第二小法廷 昭和54年(オ)90号 判決 1980年7月04日

上告人

福嶋正行

右訴訟代理人

辻武夫

被上告人

岡本正清

被上告人

小川貫一

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人辻武夫の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、上告人が被上告人岡本に交付した所論の保証金は、本件砂利採取契約に基づく採取料債権のみならず、契約終了後上告人が本件土地を明渡すまでの間に生ずる賃料相当額の損害金債権その他右契約により生ずる一切の債権を担保するものと解されるから、右の保証金の返還請求権は、右契約が終了して上告人が本件土地を明渡したときにおいて、それまでに生じた右の一切の被担保債権を控除しなお残額があるときに、その残額につき発生するものと解すべきである。しかるに、上告人は、右の返還請求権の発生要件を主張立証していない。したがつて、上告人の保証金の返還請求は、理由のないものであり、右請求を棄却した原判決は、結論において正当である。論旨は、原判決の結論に影響を及ぼさない部分についてその不当をいうものであつて、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(鹽野宜慶 栗本一夫 木下忠良 塚本重頼 宮崎梧一)

上告代理人辻武夫の上告理由

一、原判決には審理不尽及び信義則の解釈を誤つた違法がある。

1 原判決は十一葉表九、一〇行目に「すでに受取つた保証金三〇万円の返還義務を有するものと一応解せられないでもない」と判断しておき乍らその後で信義則を盾にとりその返還義務を否定している。

2 その理由とする処は

本件作業契約の履行不能(場所提供義務の履行不能)の原因の一半は偶々福嶋の保証金支払時期が当初の約定より大巾に延引されたことによるとしている、然るに福嶋は岡本の黄小道に対する債務を代位弁済等せずして岡本の責任に甘んじて契約終了の途を撰んだとして「履行不能の招来の防止を期待できるのにこれがなされなかつた場合においては」(原判決十二葉末尾から十三葉初めにかけて)双務契約の解除による原状回復請求権を制限することが衡平に適すると為した。

3 然れども福嶋は岡本の責任に甘んじて契約終了の途を選んだものに非ず、昭和五〇年六月二〇日頃作業現場で黄小道にストップをかけられるや、その後数回に亘つて黄小道に頭を下げて何とか作業を続行さして貫いたいと頼みこんだ、然し乍ら黄小道はたゞもう激怒するだけで全然受付けてくれず此方の懇願を振り切つて昭和五〇年七月一五日岡本に対し契約解除の内容証明を出したものである。

4 従つて福嶋は履行不能防止について十分岡本に協力したものであり決して岡本の責任に甘んじたわけでもなく且自ら契約終了の途を選んだわけでもない。原判決はこの点に関して審理不尽により事実の誤認を為している、而してその点を正当化するために信義則の原則を持出しておるが福嶋には些も信義則違反の事実はない。若し岡本に些かなりとも誠意があれば昭和五〇年一月に受取つた乙第三号証の金三〇万円(内二〇万円は岡本自身手取りしている)だけでも事情を言つて黄小道に手渡しておればこのような結果にはならなかつたかも知れない。

要は岡本自身の不誠意によつて履行不能を招いたものであり、福嶋からの入金が遅れればその事情を説明して黄小道に猶予を乞うべきである、然るに岡本は一銭の入金も為さず且遅滞した事情を黄小道に打明けて猶予を乞うた事実もない。かゝる事実の審理なくして履行不能の責任の一半を福嶋に負はしているのは之亦審理不尽と言わざるを得ない。

二、原判決には理由不備・理由齟齬の違法がある

以上の如く福嶋は些も信義則に反する行為をしていない。

従つて原判決に於て信義則違反の理由とする処は理由にならないことを理由にしているものであり理由不備の違法があり且その理由に齟齬あるものといはねばならない。

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